「だって、好きなんですもん。一緒にいたいから、だから悲しいんです」

「……なんで悲しいんだ?」

ザックは心底分からないといった風に首を貸して、顔をそむけたロザリーを捕まえようと、抱き上げる。

「ひゃっ」

「俺も一緒にいたいし、ロザリーがそう言ってくれるの、うれしいけど」

片腕にお尻を乗せるようにして持ち上げられて、ロザリーには逃げ場が無くなる。こうしていると、顔もザックの方を向くしかなくなるのだ。

「だから泣くなよ」

「でも私。王太子妃にはふさわしくないです」

「俺も王太子にはふさわしくないぞ。バイロン兄上に比べれば気品もないし、冷静さにも欠ける」

言いながら、ザックは恥ずかしそうに目をそらす。

「それでも、今は俺が継いだほうがうまくいくんだろうと思う。なぁロザリー、この国は生まれ変わるんだ。平民と王族が混ざり合った俺と、貴族と犬の記憶の混ざり合った君が支えていくなら、今までにはないおもしろい国になると思わないか?」

どこまで信じてくれたのかは分からない。
ただ、あまりにあっけらかんとザックが言うので、ロザリーもそんなものかと思ってしまう。

「でも……大丈夫でしょうか」

「兄上もコンラッドもいる。ケネスも助けてくれる。何より、まだ父上もご健在だ。俺たちが体面だけでも取り繕えるようになるまでの時間くらいはあるだろう。ほら、そう考えれば気楽にならないか? いいことだっていっぱいあると思うんだが、それでも王太子妃になるのは嫌か? 俺は他の令嬢を娶る気はないから、ロザリーにうんと言ってもらえなければ困るんだが」