前世が犬の、田舎の令嬢。あまりにも風変わりで、ロザリーは自分が王太子妃にふさわしいなんて思えない。
もっとそういうのが似合う人はいっぱいいる。
例えばクロエならば、彼の隣に立っても見劣りもしなければ、堂々と立ちまわることもできるだろう。

(それでも、私がザック様を好きなのは止められないんだけど)

しばしの沈黙は、ロザリーを臆病にした。
ザックの顔を見ることができずに、胸のあたりで手をギュッと握って言葉を捜す。

「……ふさわしくないなら、今のうちに振ってください」

(十分、夢を見たもの。王都まで来て、社交界デビューもできた。ザック様ももう命を狙われることもない……)

十分だ、と思うのに。ロザリーの胸は締め付けられた。
彼がこっちを向いて、ホッとしたように笑ってくれるのがうれしかった。
背の高い彼が、かがんで話しかけてくれるのも、腕に抱き上げてくれるのも。
とてもとても幸せで、誰といるよりホッとできた。

「ロザリー、なんで泣いてるんだ」

ぎょっとしたように、ザックが腰をかがめてのぞき込んでくる。

「これは、……だって。だって」

ふさわしくないと分かってる。王太子妃とは、生まれながらの貴族といった人がなるもので、こんな時に感情を制御できない人間には、向いていない。
だけどロザリーは堪えられない。好きなものは好き。離れたくないものは離れたくない。リルの本能が、好きなら隠すなって言っている。