「わあ、綺麗です」

故郷はアイビーヒルでは、こうしてよく外を眺めていた。リルのときはもっといっぱい。

(リルのこと……言わなくていいのかな)

ロザリーの前世が犬のリルであること、その記憶を思い出したために嗅覚が鋭いこと。
知っているのはレイモンドだけだ。
前世は関係ないと言えばそれまでだけれど、リルの記憶が無ければ、ロザリーはアイビーヒルには来なかった。つまり、ザックに会うことも、こうして王城に来ることもなかったのだ。
だとすれば、今のロザリーは、リルとは切り離せないものなのではないかと思う。

「あの……」

「こうして無事に城に戻ってこれたのは、ロザリーのおかげだな」

リルのことを言葉に仕掛けたロザリーにかぶせるようにザックが話し出す。
彼は胸元から、ロザリーがプレゼントしたネックレスをちらりと見せる。
グリゼリン領の旅立つ前に渡したものだ。
同じものを、ロザリーも持っている。お仕着せの中に隠れて見えないけれど、いつも存在を感じられる大事なものだ。
ロザリーも胸に手を当て、服の中のネックレスに感謝しながら続けた。

「私は願っていただけです。こうして無事に平和が戻ったのは、ケネス様やナサニエル様、他の多くの人の力があったからですよ」

「まあ結果としてはそうだが、俺にとって一番大事だったのか、心が折れないことだったんだよ」

ふわりと、風で髪が揺れる。ロザリーにはザックはしっかりしているように見えるのだけれど、彼はよくこんなことを言う。

「ロザリーが待っているって思えば、何があっても負けられないって思えた。君のために、平和な国にしなければならないと思った」

そしてまっすぐな気持ちをくれる。
ロザリーは気恥ずかしくて、どんな顔をしていいか、分からなくなる。