(まあいいか。三日ぶりだし。私だってザック様に会いたかったしね!)

彼の後をついていきながらそんなことを考えていると、二階にある応接室へと連れてこられた。
扉を開けた瞬間に甘い匂いが鼻をかすめる。
無意識にふんふん、と鼻を動かしていると楽しそうにザックが笑う。

「やっぱりロザリーには分かるんだな。とっておきのお菓子があるんだ」

半開きだった扉が全開になると、テーブルを囲むソファにケネスとクロエの姿が見えた。
そのテーブルの上には小さなマフィンがたくさんのっている。

「ロザリー、久しぶりね!」

「クロエさん! 会いたかったです」

ひらひらと手を振るクロエに、ロザリーは駆け寄る。手を絡ませて喜ぶふたりを穏やかに眺めるのはケネスだ。

「私もよ。あの事件以来、屋敷から出るなってお父様がうるさいんだもの。でも今日はどうしてもこのお菓子を届けたくって。ああでも残念。すぐ戻らなきゃならないの。どこぞの王子様が邪魔をするなってうるさいから。ね、お兄様」

ケネスもにこりと笑って見せる。

「そう。僕たちは直ぐ帰るけど、あと一時間もしたら父上が君の顔を見に寄るはずだからね。ロザリー、こらえ性の無い男の言うことを素直に聞いちゃだめだよ」

「え? は?」

「うるさいケネス」

「忙しい君に変わって、この部屋の手配したのは俺だよ。父上は俺たちもずっと一緒にいると思っているんだ。ふたりきりの時間を作ってやるのはせめてもの情けだよ。もっと感謝してほしいものだね」

「分かった! いいから帰れよ」