マデリンが辞したことでカイラは事実上、第一夫人となる。そのため、公務が膨大に増え、侍女を勤めるライザとロザリーの仕事量も増えている。新しく三名の侍女を雇ったが、慣れるまではどうしてもライザとロザリーへの仕事配分が多く、一日の仕事が終わるとくたくただ。

「ではカイラ様、お休みなさいませ」

ロザリーは、カイラに挨拶をし部屋を辞した。自室に向かって歩いていると、ふいに白檀の香りが香ってくる。

「ザック様?」

「当たり。驚かせようと思っても、すぐ気づかれてしまうな」

いつの間にか後ろにザックがいた。
同じ城内にいながらも、会話をするのは三日ぶりだ。
王子に復位してからというもの、彼は執務付けになっており、ゆっくり話す時間が全然取れずにいた。

「仕事は終わったんだろう? 少し話さないか?」

「はい! ザック様もお仕事は終わったんですか?」

「終わるのを待っていたら自由時間など取れない。国王は知らねばならないことがたくさんあるんだな。うずたかく勉強用の本を積まれている」

「大変ですね」

こんな風にふたりきりでいるところを見られるのは、本当はよくない。
次期王に指名されたアイザック王子のお相手を狙っている令嬢は多くいて、彼らを納得させるためにも、ロザリーには養子縁組の話が来ている。
バーナード侯爵かイートン伯爵か。どちらを選んでもいいと言われていて、ナサニエルやカイラは侯爵家を選んでほしそうだったが、ロザリーの心情的にはイートン伯爵家を希望している。彼らなら、家族のように思えるからだ。
その縁組が整うまでは、あまり表立った接近は控えるように言われている。