「そうしてくれると俺もありがたいんだけど、君にはもっといい仕事があるんだよね。アイザックからの提案なんだけれど、城の料理人として働いてほしいそうだ。アンスバッハ侯爵はバイロン王子の料理に毒を仕込んでいた。それが日常的に行われていたことを考えると、城の料理人は一新したほうがいいと考えているようだ。だが、凄腕の料理人がそんなにたくさん、しかもすぐには見つからない。人手がね、足りないんだよ」
「それは光栄ですが。いいんですか、俺みたいな田舎者の料理人で」
「ああ。そうすればクリスの学校もおのずと決まってくるだろう? この子は平民学校に行かせるにはもったいないくらい賢いけどね」
それには、オードリーが首を振る。きょとんと見上げるクリスの髪を撫で、彼女のこの先を案じるように唇を結ぶ。貴族社会の中に入り込んだ平民という立場は、オードリー自身が経験してきたものだ。思うところがあるのだろう。
「いいえ。クリスには平民の学校に行かせます。ケネス様は私達にも分け隔てなく接してくださいますが、貴族の中に平民がぽつりと入れば、苦労するのは目に見えていますもの」
「そうかい? ならばそうするといい。決定権は君たちにある」
ケネスはそう言うと、マフィンの残りを口にする。しつこく無い甘さで、肩のあたりに溜まった疲労が溶けたような気分になる。ケネスはゆったりとカップを傾けながら、残り少ない休息時間を楽しんだ。
「それは光栄ですが。いいんですか、俺みたいな田舎者の料理人で」
「ああ。そうすればクリスの学校もおのずと決まってくるだろう? この子は平民学校に行かせるにはもったいないくらい賢いけどね」
それには、オードリーが首を振る。きょとんと見上げるクリスの髪を撫で、彼女のこの先を案じるように唇を結ぶ。貴族社会の中に入り込んだ平民という立場は、オードリー自身が経験してきたものだ。思うところがあるのだろう。
「いいえ。クリスには平民の学校に行かせます。ケネス様は私達にも分け隔てなく接してくださいますが、貴族の中に平民がぽつりと入れば、苦労するのは目に見えていますもの」
「そうかい? ならばそうするといい。決定権は君たちにある」
ケネスはそう言うと、マフィンの残りを口にする。しつこく無い甘さで、肩のあたりに溜まった疲労が溶けたような気分になる。ケネスはゆったりとカップを傾けながら、残り少ない休息時間を楽しんだ。



