「私が作ったんです」
「見た目も綺麗で、すごいね、クリス。レイモンドから教わったのかい?」
小さいながら、なかなかの腕前だ。本人も好きなようだし、将来は菓子系の料理人になるのかもしれない。
クリスはオードリーに似て頭もいいのでもったいないとは思うが、本人の希望を優先するのが一番なのだろう。
ケネスは一口食べてから、思い切り笑顔でクリスの頭を撫でる。
「おいしいよ」
「えへ」
クリスはぱっと顔を輝かせ、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて自分の席へと戻っていく。
すっかり和んだケネスは、あたらめてクロエをねぎらった。
「クロエも、よく頑張ったな」
「私は何も。ひっかきまわしただけですもの」
「コンラッド様が最後に味方に付いたのはお前の功績だろう。……お前に媚薬を飲ませようとしたと聞いたときには殺してやろうかと思ったけれど、そうはならなくてよかったよ」
元々ケネスはコンラッドが嫌いだが、大事な妹に不埒な真似をしたとあれば許すわけにはいかない。
ただ、その後クロエが彼を擁護したことや、侯爵の罪を立証するための証拠集めにおいてこちらに協力的な姿勢を見せていることから、剣呑とはしているものの会話はする関係にまでは戻っている。
「心配しました? お兄様」
「あたり前だ。おまえの働きには助けられたが、今後は勝手に危険な行動はしないで欲しい」
「あら、私は私のやりたいようにしますわ」
にっこりとほほ笑みつつ、「でもお兄様を心配させるのはやめておきますわ」とケネスに対しては従順な姿勢を見せる。



