「クロエさん、動けますか?」

「大丈夫。ちょっと膝ががくがくするけど。平気よ」

気丈に言ってはいるものの、無理はしているのだろうとロザリーは思った。けれど、ロザリーの力でクロエを抱えることはできない。近衛兵団宿舎までは頑張ってもらわなければ。

「なにがあったんです」

「媚薬を飲まされかけたの」

「ええっ?」

ロザリーは心配でクロエに縋り付いた。
ドレスが破れ、露出しているのは肩の一部分だけだが、どこまでされたのかは分からない。
心配で見つめるものの、ロザリーは適切な言葉を見つけられなかった。
クロエは安心させるように、口もとを緩ませる。

「……大丈夫よ。結局やめてくれたし、コンラッド様も吐き出したから、摂取したのはほんの少量だわ」

「でも、怖かったでしょう? 例え襲われなかったとしても、されかけただけで十分恐ろしかったはずです」

クロエは強がるのが上手だから、知らないうちに傷ついているのではないかと心配になる。ぎゅうと彼女を抱きしめれば、クロエは体を震わせ始めた。

「ロザリー」

潤んだ声が心配で、もっと力を籠める。するとクロエはクスリと笑い出した。

「クロエさん」

「大丈夫よ。ロザリーは敵じゃないって思ったら安心しただけ。私……」

そのとき、階下から階段を上る音が響いた。
アンスバッハ侯爵の姿を遠目に見つけ、クロエは咄嗟にコンラッドの部屋の隣にロザリーを引っ張り込んだ。