「早く連れていけ!」
「え?」
コンラッドは苦しそうに息を吐きだしながら、ロザリーに怒鳴りつけた。
「早くクロエ嬢を父親のもとに連れていくんだ。でないとお前を犯すぞ!」
「ええっ?」
突然物騒なことを言われ、なにがなんだか分からないが、逃げてもいいのならば異論はない。
ロザリーは言われた通りにクロエを支え、立ち上がらせる。
「クロエさん、動けますか」
「……コンラッド様」
ちらり、と伺うようにクロエがコンラッドを見る。
対するコンラッドは、苦しそうに顔を歪め、荒い息のまま、クロエを熱っぽく見つめた。
「早く行け」
「ですが」
「……君の泣き顔を見るのは、思っていたよりも全然楽しくないものだな」
ロザリーには訳が分からなかったが、その言葉はクロエの琴線に触れたらしい。
クロエの目から再び涙がこぼれそうになり、彼女は自ら頬を叩いて気を引き締めたのち、涙声で語った。
「コンラッド様。今が一番格好いいです。あなたはもっと前から、自分のことを見つめるべきだったんです。悪い方ではない。いかようにも、自分で変われたでしょう」
「生きていられたなら、善処しよう」
コンラッドの呼吸がさっきよりもずっと荒くなり、額には汗が浮かんできた。
話すのも面倒くさくなってきたのか、早く行け、というように手ぶりで示す。
息を詰めて見守っていたロザリーは、クロエが頷いたのを見て会話の終わりを悟った。



