「あの……」

「きゃっ、なに、あなた」

声をかけると侍女は体をびくつかせたが、ホッとしたようにも見えた。

「私、クロエ様を……」

「こ、交代ね? 見張りの交代、そうでしょ?」

「え、ええ?」

「任せたわよ!」

侍女は一気にまくしたてると、助かったとばかりにロザリーを置いて走っていく。

「見張りって……」

ロザリーは目の前の扉を見る。
一体誰の部屋だろう。ナサニエルやカイラの部屋とは階段を挟んで逆向きなので、ロザリーはこちら側に入ったことが無い。

扉は重厚なつくりだが、耳をしっかり当てれば物音くらいは聞こえそうだ。
それに、ここからもクロエの香りがするのが気になる。考えているうちに、「きゃっ」と女の悲鳴のような声が聞こえたので、ロザリーは怒られるのも構わず、扉を開けた。

室内は甘いにおいが充満していて、鼻が利きすぎるロザリーには強すぎた。顔をしかめてハンカチで鼻を押さえる。
どうやら男性の部屋のようだ。大きなベッドと書き物机。男性用の礼服が壁にかけられている。
その、ベッドの傍に倒れているふたりの人間の影が見えた。

「クロエさん……っ!」

「……ロザリー」

クロエの顔は涙で濡れていた。床には小瓶が転がっていて、中身がこぼれたのか床が濡れている。
ドレスの肩の部分が破れていて、ロザリーは咄嗟に彼女をかばうように前に立った。

「なにがあったんですか?」

もうひとりの人影はコンラッドだ。クロエから少し離れた位置に四つん這いになって、体を押さえている。