一方、ロザリーは城内を駆けまわっていた。
クロエの香りはよく知っているので、今更確認する必要などない。
屋敷のにおいを手当たり次第に嗅ぎ取って、一番濃い彼女の香りをたどっていけば見つけることができるはずだ。

城内は緊張感が漂っていた。城門から平民たちがどやしつける声がここまで届くせいか、みんな怯えて部屋に閉じこもっている。廊下で出会う人間はほとんどおらず、時々すれ違う警備兵も、わき目も降らず城門へと向かっていく。

ロザリーはさっと全体のにおいを嗅ぎ、階段の手すりのところにクロエの香りを見つけた。
それは上へと繋がっていて、そこからは二階の廊下に続くものと三階へと続くものとある。しかも、三階に続く香りには近い距離で男性のものも混じっている。

「この香り……嗅いだことがあるような」

覚えている香りではない。
つまり、ナサニエル陛下、イートン伯爵、アンスバッハ侯爵、アイザック、ケネスは除外できる。
それ以外で、嗅いだことのある男性の香りなどあっただろうか。

二階は執務室や応接室がある。対して三階は王族の私室がほとんどだ。
より濃いにおいは、三階へと続いている。

「三階から行ってみようか……」

ロザリーは三階へと上がった。普段ならば警備の近衛兵がいるはずなのだが、今は姿が見えない。かわりのように左手側の廊下に、侍女のお仕着せを来た女がひとり立っていた。外から聞こえてくる民衆の騒音におびえている様子だ。