近衛兵は通常ふたり組で警備にあたるため、ナサニエルはドルーと共に城内に入る。
近衛兵に支給されている兜を目深にかぶり、目元がはっきり見えないようにしているのだが、それだけで人がナサニエルだと気づかなくなるのが、不思議だった。広い廊下に、ナサニエルは人が動く動く姿をあまり見たことが無い。国王に気づけば、誰も動きを止め、頭を垂れたからだ。

「……肩書とはこういうものだのだろうな」

「制服を着ているから余計疑いもしないのでしょう。陛下は体つきがいいですからな。立派な近衛兵に見えますとも。さて、どうします?」

「警備兵がずいぶん城に入り込んでいるんだな。彼らはアンスバッハ侯爵を守ろうとするだろう。近衛兵を城内に配備し、アイザックたちが城に入ってきたら、警備兵を押さえてもらうよう指示を出してくれ。議会の方はアイザックに任せよう。我々はアンスバッハ侯爵の罪を暴くのが仕事だ」

ドルーはうなずき、すれ違う近衛兵を捕まえて指示を出す。彼は頷くと宿舎の方へとまっしぐらに走っていった。

廊下やロビーには人が見えない。
議員たちは議場に集まり、貴婦人たちは怯えて部屋に鍵をかけて閉じこもっているようだ。
時折、従僕たちが様子を見てくるように命じられるのか、部屋を出てきては、窓の外を確認するだけで戻っていく。近衛兵や警備兵には目もくれない。

「侯爵はどこだ?」

議場を確認したが、そこにはいなかった。議員たちはいっせいにこちらを見たが、近衛兵かというようにすぐ視線を逸らす。ふたりは再び廊下に出た。
コンラッドが王代理で、彼がその補佐をしているのならば、コンラッドの部屋か国王の執務室か。

「……もしくは、マデリンの部屋かもしれないな」

彼は妹を大事にしていた。
マデリンも何かあればすぐに兄を頼っていたはずだ。今の暴動が不安で呼びつける可能性は高い。
二階の執務室に向かうよりは、マデリンの部屋のある棟に先に寄ったほうが早いだろうと考え、ナサニエルはマデリンの部屋へと向かった。