王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

計画通りに、第一隊に混じって宿舎へと入り込み、ナサニエルは近衛兵の制服に、ロザリーはメイドのお仕着せに着替えた。

城門の方から、民衆の声が聞こえる。「我らに自由を」「平民の権利を」と叫ぶ声が、重なり合って響いてくる。

「では、私はクロエさんを捜しに行きます」

「途中までは一緒に行こう」

ナサニエルがそう言ったが、ロザリーは首を振る。

「メイドは近衛兵と一緒には行動しません。ひとりのほうがどこにでも忍び込めますし」

「では、……クロエ嬢を見つけたらすぐにここに戻るんだ。彼らは君たちを守ると約束している」

「はい! 陛下もお気をつけて」

軽やかにロザリーが駆けていく。

「前から思ってたけど、あの子、可愛いですよね。王城の侍女には珍しくふわっとしていて」

若い近衛兵が独り言のようにそう言い、「思ってた。カイラ様も癒し系だなと思っていたけど、別タイプの癒し系だよな」ともうひとりの近衛兵が同意する。

「お前たちはカイラをそういう目で見ていたのか?」

カイラ妃を抱き寄せながら、ナサニエルがじろりと睨む。

「へ、陛下! 聞こえてましたか。すみません。いや、ほら、憧れ的な意味でですよ」

「そうそう。でも侍女ちゃんはちょっと本気で狙ってますけど」

にへっと笑った近衛兵は爽やかな好青年だったが、「あの子は駄目ですよ」とカイラは笑った。

「そうだ。すでに売約済みだからな」

「……え?」

近衛兵たちが戸惑っているうちに、ナサニエルは剣を脇に差し、装備を整えて歩き出す。

「さあ、行くぞ。ドルー。お前たちは、宿舎をしっかり守るように、カイラになにかあったらただじゃすまないぞ」

「はっ!」