コンラッドの喉が鳴る。明らかに、心は動いているようだ。しかし、常に決定を他人にゆだねてきた経験のせいか、迷いは捨てきれずにいる。

「だが、……もう誰もいなくなったではないか。だとすればやはり、私が王になるしかない」

「……本当ですか?」

クロエの問いかけに、コンラッドは目を瞠る。

「葬儀を終えたバイロン様はともかく、陛下もアイザック様も、死体が発見されたわけではありません。私は、彼らが生きてると信じています」

これでどうだ、とダメ押しのつもりで言ったが、予想に反してコンラッドの顔が険しくなった。
先ほどまでの言いくるめられそうな様子から一転してしまった。

「……そなたは、やはりまだ義兄上のことを想っているのだな」

コンラッドは、クロエがアイザックを救うために婚約を了承したと信じている。
だからなのか、絞り出すような声で切々と訴える。

「俺が望んでいるのは、君だ。君が欲しいから、王になりたかった。なのに、君はまだ、生きているか死んでいるか分からない義兄上のことを忘れていないのか」

コンラッドが一歩近づいてくる。クロエは説得失敗を感じて焦った。

緊張した空気を割るようにノックの音が響き、マデリンの侍女が顔を出す。

「マデリン様からコンラッド様に渡すようにと預かってまいりました」

侍女は、床に座り込んでいるクロエを見て怪訝そうな顔をしたが、なにも言わず頭を下げて出ていった。
コンラッドの手に、小さな小瓶が残される。