*
「こちらがワイン。こちらが、ヒ素を入れたワインです。色、見た目はほぼ変わりありません」
ここは、アンスバッハ侯爵邸の執務室だ。
オードリーは震える声で、ブドウ色の液体の入ったグラスをアンスバッハ侯爵とグランウィルに見せる。
チラリとグランウィルに目配せすると、彼はネズミが入った籠を出す。
オードリーは小さな皿を出し、それぞれの液体を入れて見せる。
グランウィルがネズミに舐めさせると、毒入りの方を飲んだネズミが、やがて苦しみだし、もがき暴れたと思っていたらぷつりとこと切れた。
「……即効性だな」
「ええ。即効性がお望みでしたから」
笑みを深める侯爵に、オードリーは震えながら小瓶を差し出す。
「これがその毒です」
「わかった。なかなかいい仕事をするものだな。こうして言うことを聞いていれば、重用してやれるのだ、わかったか?」
「……はい」
たった一度の暴力で従順になった女に、侯爵は笑顔を張り付ける。
平民とは、こういうものだ。貴族からのどんな無理難題にも、諦めの顔で応じるもの。
全てがようやくうまく動きだしたことを感じて、胸がすっとする。
「下がっていい」
「……はい」
オードリーは目を伏せたまま、下がる。
「グランウィル、彼女に褒美を。今日は新しい料理人の菓子でも与えてやるように」
「はい」
ご機嫌な主人に、グランウィルもまた穏やかな笑みを浮かべていた。
「こちらがワイン。こちらが、ヒ素を入れたワインです。色、見た目はほぼ変わりありません」
ここは、アンスバッハ侯爵邸の執務室だ。
オードリーは震える声で、ブドウ色の液体の入ったグラスをアンスバッハ侯爵とグランウィルに見せる。
チラリとグランウィルに目配せすると、彼はネズミが入った籠を出す。
オードリーは小さな皿を出し、それぞれの液体を入れて見せる。
グランウィルがネズミに舐めさせると、毒入りの方を飲んだネズミが、やがて苦しみだし、もがき暴れたと思っていたらぷつりとこと切れた。
「……即効性だな」
「ええ。即効性がお望みでしたから」
笑みを深める侯爵に、オードリーは震えながら小瓶を差し出す。
「これがその毒です」
「わかった。なかなかいい仕事をするものだな。こうして言うことを聞いていれば、重用してやれるのだ、わかったか?」
「……はい」
たった一度の暴力で従順になった女に、侯爵は笑顔を張り付ける。
平民とは、こういうものだ。貴族からのどんな無理難題にも、諦めの顔で応じるもの。
全てがようやくうまく動きだしたことを感じて、胸がすっとする。
「下がっていい」
「……はい」
オードリーは目を伏せたまま、下がる。
「グランウィル、彼女に褒美を。今日は新しい料理人の菓子でも与えてやるように」
「はい」
ご機嫌な主人に、グランウィルもまた穏やかな笑みを浮かべていた。



