カイラは戸惑っていた。
クロエにはナサニエルにも報告するように言われていたが、カイラは結局内緒にする方を選んだ。執務で忙しい夫に、心配事を増やさせたくはなかったからだ。
一緒に行くと言われて、素直に頷いていいのか分からない。

ロザリーが、そっと腕に触れ、「陛下のお気持ちをありがたく受けましょう」と言うと、ようやく頭が動き出したように「ええ」と小さく笑った。

その様子を見ていた侯爵は、皮肉気に笑う。

「陛下はカイラ様のことになると過保護ですな。まあいいでしょう。カラザはギリギリ日帰りのできる距離です。一泊される場合はご連絡を。本日の執務の調整は私にお任せください」

「ああ」

ナサニエルはカイラの肩を抱き、一度室内に戻る。三十分もしないうちに護衛の準備が整い、出発となった。
既に侯爵は執務に戻っていて、カラザまでの案内の男だけが待っていた。
護衛は騎乗していて、馬車を囲むように配置される。

馬車が走り出してしばらくして、カイラが不審そうに問いかける。

「……あの、陛下はどうして……今日のことが分かったのです……?」

カイラの消え入るような声に、ナサニエルはため息を吐き出した。

「クロエ嬢が教えてくれた。カイラには相談するように進言したが、どうでしたか、とな」

第三王子の婚約者とはいえ、自分から王に発言するのは相当の勇気がいるはずだ。ロザリーは心の中でクロエに称賛を贈った。