ライザが扉を開けて迎えると、クロエは微妙な表情をして立っていた。

「恐れながら、カイラ様にお話がございます。……よろしいでしょうか」

「ええ。カイラ様、クロエ様がいらっしゃいました」

クロエはひとりだった。彼女にしては珍しく、迷っているような態度を見せる。

「お入りになって。どうなさったの、カイラさん」

カイラは弱々しい笑顔で椅子を勧める。
クロエは一礼して中に入ると、勧められた席に腰掛け、気まずそうに告げる。

「実は、……アンスバッハ侯爵様がアイザック様の情報を掴んだそうです」

「え?」

「本当ですか?」

カイラもロザリーも色めき立つ。しかし、クロエは困ったように目をそらす。

「本当かどうか、確証がない話なんです。侯爵様によると、各地に派遣した捜索隊から、アイザック王子に似た人物を見かけたと報告があったそうなんですが、どうも様子がおかしい……と」

捜索隊が見つけたのならば、すぐに保護して王城に連絡が入るはずだ。先に侯爵に連絡が行くのはおかしい。
同じ疑問をクロエは感じ、侯爵に問いかけたらしい。

「声をかけても反応が悪く、怯えていて、保護したらしき平民の家に閉じこもってしまったそうです。家人に話を聞けば、川に流されてきたところを保護したのだそうで……記憶を失っているそうなんです」

「記憶を……?」

にわかには信じられない話だ。
けれど、襲撃を受け、死体が見つかったわけでもないのに連絡が一切取れないのは、本人に記憶が無いからと言われれば筋は通る。