「まあそこまで言うな。父上が伯父上や母上をないがしろにできなかったのは私のせいだ。第一王子の後ろ盾をなくすわけにはいかないと、そう思ってくださったのさ」
「それはそうでしょうが」
バイロンとケネスの会話に、遠慮がなくなっているのを見て、ザックは不思議に思う。
ケネスはバイロンを嫌っていたはずだったのに。
「……兄上の言い分は分かりました。でも、民を扇動するのは俺でなくてもいいはずです。むしろ、兄上が表に出たほうが、アンスバッハ侯爵との対立構図が明らかになっていいのではないですか? そのほうが父上を救うこともたやすくなる」
「俺に、伯父と母を討てというのか? あいにくそこまで薄情ではない。だからこそ、俺も父上もここまでなにもできずに来てしまったんだ」
「それでは俺が薄情みたいじゃないですか。俺だって嫌です。自分の父親に刃を向けるなど」
「だが他のものがやれば、父上は殺されてしまう!」
バイロンの声が、いつになく真剣みを帯びた。
「……私は第一王子だ。誰からも優遇されて生きてきた。それなのに、愛情をかけてくれたのは父上だけだ。私は父上の望みをかなえてあげたいし、何の責任もなく、ただの男として平穏を過ごさせてあげたいのだ」
そのためには、政変で殺されて欲しくはない。
アイザック第二王子がやるからこそ、甘い判断が許される。彼の父親だから。



