王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました


「アイザック。お前は今の現状をどう思う」

「今……とは」

「伯父上が裏でこの国を牛耳っていることを、だ。この国は伯父上のものではないのだ。だが、この国の制度上、侯爵位を持つ伯父上を廃することは理由がなければできない。そして、その理由をあぶりだすことができずにいるのが現状だ」

「ええ」

「もちろん、尻尾を掴めそうな事例もある。が、近衛兵は父上の管理下だが、王国警備隊は彼の手中にあるようなものだ。なかなか立件するのは難しい。加えて、父上の爪が甘く、いつも抑えられてしまう。……父上は基本的にお優しいのだ。伯父上への恩を捨てきれていない」

「はあ、ですが、いつも敵対しているアンスバッハ侯爵へ恩があるのですか?」

「私たちが生まれる前にな。父上は十五歳で王位についた。両親を亡くしてのことだ。支えてくれる家臣がいなければ、なにもできなかったろう。義兄である侯爵が力を尽くしてくれたから王としてやってこれたのだ、と父上は私に話してくれた」

バイロンの声に郷愁が混じる。ザックは不思議な気分でそれを見つめた。
自分と父親の間にはなかった信頼が、バイロンとの間には感じられた。
バイロンは直ぐ表情を陰られる。

「……だから父上は、愚王になると決めたのだろう」

「は?」

ザックは目を剥いた。
意味が分からない。愚王になる、とはどういう意味だ。