震える手で、ナサニエルの手を握る。すると彼は愛おしそうにバイロンの頬を撫で、決意を込めたまなざしで見つめた。
「お前は侯爵側にとっても切り札だ。絶対に最後の一線を越えることはないと思っていた。それを破られたということは、この城にお前の安全はもうない。だからお前をここから逃がそうと思う」
彼はそう言い、〝バイロン・ボールドウィン〟の死を宣告した。
バイロンは父の意図が分からなかった。どちらにせよ、体も動かない。
ただ、肩を落とした父の姿と、頬に落ちた涙と、「王位だけがお前に残せるものだと思っていたのに。……すまない」という父の言葉に、バイロンは彼の愛情だけは、信じられると思えて嬉しかった。
『父上の愛情こそが宝物でしたよ』と、途切れそうな意識の中で、切れ切れに告げる。
ちゃんと声になっていればいいと、願いながら。
「……俺が覚えているのはそこまでだ」
といい、バイロンがジョザイアに視線を向ける。
「その後は私が説明しましょう」と、ジョザイアが会話を引き取る。
「陛下はいつかバイロン様を救い出すための案をいくつか考えておられました。そのうちのひとつを実行したのです。私の部下が死体置き場から似た体格の身代わりの死体を探し出し、顔中に斑点をを描かせて、顔の判別ができないようにしました。陛下は顔の変色は毒の影響だと伝え、生きていたときの姿を覚えていてほしい、と棺は葬儀の間もずっと閉じたままにしておくよう命じたのです」
「お前は侯爵側にとっても切り札だ。絶対に最後の一線を越えることはないと思っていた。それを破られたということは、この城にお前の安全はもうない。だからお前をここから逃がそうと思う」
彼はそう言い、〝バイロン・ボールドウィン〟の死を宣告した。
バイロンは父の意図が分からなかった。どちらにせよ、体も動かない。
ただ、肩を落とした父の姿と、頬に落ちた涙と、「王位だけがお前に残せるものだと思っていたのに。……すまない」という父の言葉に、バイロンは彼の愛情だけは、信じられると思えて嬉しかった。
『父上の愛情こそが宝物でしたよ』と、途切れそうな意識の中で、切れ切れに告げる。
ちゃんと声になっていればいいと、願いながら。
「……俺が覚えているのはそこまでだ」
といい、バイロンがジョザイアに視線を向ける。
「その後は私が説明しましょう」と、ジョザイアが会話を引き取る。
「陛下はいつかバイロン様を救い出すための案をいくつか考えておられました。そのうちのひとつを実行したのです。私の部下が死体置き場から似た体格の身代わりの死体を探し出し、顔中に斑点をを描かせて、顔の判別ができないようにしました。陛下は顔の変色は毒の影響だと伝え、生きていたときの姿を覚えていてほしい、と棺は葬儀の間もずっと閉じたままにしておくよう命じたのです」



