王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

侍女や近衛兵はすぐさまやって来て、次に父王がやって来た。
ナサニエルはベッドの上に吐しゃ物が飛び散っているのを見て、すぐにバイロンをナサニエルの自室に運び込むように命令した。
入れる人数を制限し、ナサニエルは手ずから水を飲ませ、体を拭ってくれたのだ。

「……バイロン様のお体はすっかり弱っておられます。このままでは今夜が峠でしょう」

医者はそう言い、ナサニエルは「なんとかならないのか」と何度も彼を問い詰めた。
バイロンはそのとき、声を出すこともできなかった。
意識はあるが、目を開けているのもおっくうでただ呼吸をするだけで精いっぱいだったのだ。

その後、母や伯父も様子を見に来たことようだったが、ひと言発することさえができなかった。

峠だと言われたその晩、ナサニエルは、侍女を含むすべての人間を部屋から追い出し、バイロンとふたりきりになった。

「……お前にはすまないことをした。本当はもっと早く守ってやらねばならなかったのだ。私が躊躇していたから」

ナサニエルは、バイロンが体調を崩すようになったのは、毒が盛られたせいではないか、と続けた。徐々に体を冒す毒があり、それを使われていたのではないかと、ずっと疑っていたと。

バイロンも薄々気づいてはいた。けれど、自分が毒を盛られるほど疎まれているなど考えたくはなかった。だからずっと追及するのは避けてきたのだ。
苦しさを押しのけ、薄目を開けた。ナサニエルは泣いていた。国王である父のそんな姿を見るのはもちろん初めてで、バイロンは急に、死んではならないと心の底から思えたのだ。