「いいかい、ザック。これはいつかは起こることだよ。我々貴族は、今まであまりにも平民をないがしろにしすぎた。父上や君がそれを正そうとしても、撒いた種が芽を吹きだしたところで摘み取られてきたんだ。やがては大きなうねりが起こる。そうなったときに、俺はもう、自国の貴族を守ろうとは思わない」

「しかし、そうなれば父は……」

貴族の筆頭は国王であるナサニエルだ。民の反乱に協力することは、彼と決裂することと同義だ。
ザックは、ちらりと同席しているジョザイアを見る。父の側近である彼に、こんな話を聞かせるべきではないと思ったのだ。

「大丈夫だよ。ジョザイア様はすべてご存知だ。俺が密売ルートを探っているとき、偶然この街で出会ったんだ。最初は探り合いながらだったが、やがて思想を同じくしていることが分かった。それで今は協力者になってもらっている。……彼は、君もびっくりの情報を持っているよ。聞いてみるといい」

そう言ってケネスは、ジョザイアを促す。
アイザックが視線を送ると、ジョザイアは穏やかにほほ笑んで、立ち上がる。

「アイザック様にお会いしてほしい方がおります」

「俺に……? 誰だ?」

「まだお加減がよろしくないので、アイザック様にご足労いただいても?」

「ああ……」

ザックはジョザイアについて歩いた。向かったのは別荘の一番奥の部屋で、ひとつの扉を抜けてもさらに廊下が続いている。

「失礼します。お連れいたしましたよ」

「ああ、入ってくれ」

声をきいた瞬間、ザックは信じられなかった。
思わずジョザイアを押しのけ、ベッドで上半身を起こしているその姿を食い入るように見つめる。

「あ、兄上……」

そこにいたのは、死んだはずの第一王子。バイロン・ボールドウィンだったのだ。