事件は死んだウィストン伯爵に全責任が負わせられ、造幣局員は通貨偽造に関わっていたメンバーこそ退職を迫られたが、逮捕まではされなかった。
ずいぶん甘い処置だと思えたが、アンスバッハ侯爵がうまく取り計らったのか、それ以上追及された様子はない。

「彼に聞いた輝安鉱の売却ルートをたどって、隣国ネオロスに向かったんだ。そこで、あちらの高官と知り合った。国内でたびたび起きる毒殺事件を追っているそうだ」

つまり、モーリア国から売られた輝安鉱を入手して、隣国ネオロスでは別の事件が起こっているということだ。

「俺は彼に協力することにした」

「ケネス!」

それは、人道的には正しい行為だ。だが同時に、国を売るような行為でもある。
毒物の不正輸出を咎められれば、当然、モーリア国側の方が悪い。ネオロス国との友好関係にはは亀裂が生じ、損害や賠償などの問題が生じるだろう。

ザックの咎めるような声に、ケネスは穏やかに笑った。

「何がいけない? このまま、政治家の不正が横行するような国に、君は本当に未来があるとでも? 平民だって馬鹿じゃない。国を動かす貴族たちが平民のことを全く考えていないことくらいは気づいている。それでも、国を国として維持するために、貴族が必要だから従っているんだ。それが外国から非を指摘されるような事態になればどうすると思う?」

ザックの背筋に冷たいものが走った。
民衆の不満が高まり、国の維持に貴族が必要ないと思われれば、起こるのは反乱だ。
だが民は後ろ盾や蜂起の旗頭を欲しがるだろう。それが他国の人間であれば、いずれはモーリア国が他国に侵食される。