ザックが連れてこられたのは、王都からグリゼリン領に向かう途中のケントリア領の別荘だった。隣国との交通との要所でもあるので、街は栄えていて、領内の東には王国の直轄地が飛び地である。そこに、ナサニエルが所有する別荘があるのだ。

「あまり手入れはされていないので、お見苦しい点はご了承ください」

「ここを使っているということは、父上の命か」

「ご明察です」

他国への異動の中間地点として、もしくは単純に休暇の際に使われる落ち着いた屋敷だ。
ナサニエルはあまり慰労旅行をしない王なので、ザックもここには一度しか来たことが無い。
カイラが呼び戻されたとき、王城に入る前に先にここでナサニエルと対面した。
ザックは、自分が王の子だということを、そのときに初めて知らされたので、あまりいい思い出ではないがよく覚えている。

応接室に迎えられ、出されたお茶を口にして、ザックはようやく人心地ついた。

「……で、ケネスはいったいどうしていたんだ?」

「俺は君が軟禁状態になってから、ここ数年で辞めた造幣局員を当たっていたんだ。全てをウィストン伯爵の首謀とするにはやっていることが大掛かりだからね。なにか見落としていることがあるだろうと思って。皆、口は堅かったが、輝安鉱を他国に流す役どころを担っていた男と接触できた。もう取引は終わったしこれ以上手を染める気はないと言って、なかなか情報は出してくれなかったけどね」