「肝心な話をする前にこの有様・・・か。」


そんな言葉に、私はその声の方を振り返る。


「私の要望は、後で、メールでまとめて送るわ。確認して、不明な点があったら、連絡ちょうだい。」


「はい、わかりました。」


ため息混じりの井上さんの言葉に、私は頷く。


「岩武さん。」


「はい。」


「あなたの商品、立ち上がり、好調みたいね。」


「本当ですか?ありがとうございます。」


「今度も期待してるから、マルに遠慮しないでお願いね。」


「井上さん・・・。」


そんな井上さんの言葉に、私が返事に困っていると


「初めて会った時、あなたのデザインした商品をノーマル、無難、可もなく不可もなくなんて言ったよね、私。」


「はい、耳が痛かったです。」


「ううん、私も初対面の人に失礼な言い方しちゃったし、とても褒め言葉には聞こえなかったろうけど。」


「えっ?」


「でもあの言葉は、本当はマルに聞いて欲しかったの。」


意外な井上さんの言葉に、私は驚く。


「あなたのデビュー作を見た時さ、ああこの子、素直でまっすぐな人なんだなぁと思った。自分が可愛い、着てみたいっていうデザインを素直に作ったんだって言うのがヒシヒシと感じられた。いいな、って私も素直に思った。」


「・・・。」


「実はマルのデザインも、前はそうだった。当時はマルがちょうど今の岩武さんの立場で。先輩の下でノビノビやってたから、マルのいい部分が出てたんだと思う。」


そうだったんだ・・・。


「それが、その先輩が退社して、自分がチーフになって、だんだんプレッシャーを感じて来たんだろうな。変に奇をてらったり、ひねり過ぎたようなデザインが目につくようになって来た。ショップで接客してても、お客さんからそんな反応が返ってくることも実際あったし。もったいないなと思って見てたんだ。」


「井上さん・・・。」


「そんな時、かつての自分のような岩武さんが現れた。その岩武さんのデザインを見て、もう一回、初心に戻ってよ。マルにそう言ってあげたかったんだ。だけど・・・きっと今のマルは、私の言葉なんか、素直に聞いてはくれないよね。だから、機会があったら、あなたから伝えてくれないかな。井上がこんなこと言ってたって。」


そう言って、陽菜さんの出て行ったドアの方を見た井上さんの表情は、とても寂しそうだった。