わたしにこんなこと言う権利はない。


芸能界へ行くことは景斗くんが決めたことだもん。

何を言おうと遠くへ、輝きのある場所へ行ってしまう。


どうか、わたしを置いていかないで。


「景斗くん……」

疲れているのだろうか。

全く起きる気配はない。


でも、そろそろ起きないと景斗くんが遅れちゃうよ。

「景斗くん。朝だよ」

「……うん」

本当に起きるつもりあるの?

「ほら、起きて」

「キスしてくれたらね」

「き、きすぅ?」

冗談だよね。


「もう!起きてよ」

「俺は本気だけど?」

「や、やめてよっ」

景斗くんはアイドル、わたしは一般人だよ?


「アイドルの景斗くんに
そんなの出来ない…」


「“アイドル”の俺には無理なんでしょ?
今の俺は“一般人”だよ」


景斗くんは私の上に乗った。

顔が近い。

甘い吐息が顔にかかって、心臓が破裂しそう。

「け、景斗くん……?」

「俺、幼なじみのままじゃ嫌だ」

さらに近づいてきて、耳元に景斗くんの口が来た。

「俺のこと、好きになって欲しい」



えぇ。

今のは何?


「け、いと……く、ん?」


景斗くんはいたずらな笑みを浮かべた。


「目をそらしたら、キスするからね」

はい!?

「そんなの、無理…だよ」

景斗くんの顔が近すぎて、目を合わせ続けるなんて出来ない。

「じゃあ、するね?」

「だ、だめ…」

私は目を閉じてしまった。




「……それは、して欲しいの?」

「そうじゃな……っ!?」


話そうとすると口を塞がれた。


「……んんっ」

長かった。

唇がくっついて離れられない。




その唇から解放された時には顔が真っ赤になっていた。

「……なんでこんなことするの?」

「好きだから」

「冗談言わないでよ」

「二葉がどう言おうと俺は本気だし、
キスしたことは謝らないから」