僕の背後にナリスマシ

 妙高と周治はディスカウントストアでビールと洋酒、つまみになりそうなスナック菓子や惣菜を買い込んだ。これから周治の部屋で家飲みをする。 周治のアパートの向かいはマンションで一階がテナントになっている。コンビニも入っているが圧倒的にディスカウントストアの方が安い。とりあえずは ディスカウントストアで必要な物を揃える。
 明日は仕事が休みだ。飲んでは寝てを繰り返し、目が覚めたらコンビニで弁当を買う。明日の夕方ぐらいまではこの繰り返しで、気が向いたら書いている小説の話をする。只、少し前までと明らかに違うのはその会話が 盗聴器のために筒抜けだということだ。

 法螺吹きパープルが明日の放送で言う内容は想像がつく。〈飲酒運転はいけません。一滴でも飲んだら運転をしてはいけません。〉と自分はさも立派な人間であるかのようにしゃべるに違いない。法螺吹きパープルがどういうタイプの人間かと言うと車の後部に[安全運転者]のステッカーを貼っておきながら右側の車線をビュンビュン飛ばして走り抜けていく、そう言う感じだ。

 根暗グリーンの今朝の放送は笑えた。昨夜、周治は断捨離をしていた。学生時代に話題となった[18禁]のVHSビデオが出てきたので、家飲みの時に妙高と見た後で処分するつもりでいた。周治は 当時希代の傑作と言われた作品をビデオデッキで再生した。グリーンはその男優のセリフを喋った。〈バカか。ちょっ、待てよ。〉
 周治はDJと会ったことはない。 一方で妙高はグリーンと一度だけ会ったことがある。イベントの司会をしている時、グリーンは自分の書いた短編小説をコピーで小冊子を作り配布していた。貰い手がほとんどいないので妙高は貰ってみた。 それを周治は読んだことがある。 ピカソの絵を無理やり文章にした感じだ。 純文学や文芸とは程遠く自分の心の中を継ぎ合わせているだけだった。文章としては取るに足りないものの、これがこの男の心の中だとうっすらと分かる。周治は妙高がネアカバカではな根暗かもしれないと言ったのが理解できた。