エレベーター

理解しているのに、体はちっとも動かなかった。


自分からエレベーターに近づかないといけないということが、最も恐怖だった。


『大丈夫だ美知佳。こうしてずっと通話をしていてやるから、なにも心配はない』


あたしを落ち着かせようと、充弘が優しい声で話かけてくる。


あたしは鼻から空気を吸い込んで何度も頷いた。


「わかってる……」


どれだけ通話してくれたって、別世界にいるのだから助けることはできない。


それでも、あたしはやるしかないのだ。


自分の勇気だけで、二度と近づきたくないと思っていたエレベーターに近づくしか、方法はないのだ。


『エレベーターに乗れば、なにかわかってくるかもしれないしな』


幸生が言う。


なにかわかるとは、あたしに伝えたいことがわかる、という意味だろう。


正直、伝えたいことがあるのならさっさと伝えて終わりにしてほしかった。


どうして1度で終わらせてくれないのか、あたしには理解できない。