「知らないよ! いきなり足を掴まれて引きずり込まれたの!」


『足を掴まれたって、誰に?』


あたしは一穂からの質問に左右に首をふった。


誰かなんてわからない。


あたしにはなにも見えなかったのだから。


『とにかく開くボタンを押すんだ!』


充弘からの指示にハッと顔を上げてボタンを確認した。


3階までの回数ボタンと、開閉ボタン。


それに、エレベーターが停止したときの緊急ボタンがある。


あたしはしゃがみ込んだまま壁に手を伸ばした。


ここエレベーターは障害者生徒のために作られたものだから、低い位置にも同じボタンが設置されている。


あたしは開くボタンを何度も何度も連打した。


「開いて……お願いだから開いて……!」


しかし、扉が開く気配はない。