あたしはその闇をジッと凝視した。


まるでそこから、闇に隠れている化け物でも出て来るのではないかと恐怖しているかのように。


しかし、どれだけ見つめても闇は闇のままでそこからなにかが出て来ることもなかった。


『美知佳?』


スマホから一穂の声が聞こえて来ても、返事をすることができなかった。


恐怖から体全体が硬直してしまい、少しも動かなかった。


『美知佳、返事しろ!』


充弘の声も聞こえて来る。


みんなあたしのことを心配している。


早く、逃げなくちゃ……!


そう思った瞬間、途端に体が動いていた。


自分の意思に反して足が引きずられ、バランスを崩した体が冷たい廊下に叩きつけられる。


「いっ……!」


痛みに悶絶する暇もなく、足からエレベーターの中へと引きずり込まれていたのだった……。