エレベーター

何者でもないその手の持ち主は、あたし自身の恐怖心とこの場の重たい空気で形成されていた。


『美知佳、もういいから戻っておいで』


一穂の声が聞こえて来る。


そんなのわかってる。


あたしだってもうやめにして、早くみんなのところに行きたい。


でも……。


カチッと微かな音が耳に届いていた。


ハッと息を飲んでエレベーターへ視線を向ける。


『今の音、なんだ?』


あの微かな音が充弘たちにも届いていたようだ。


「今……ボタンが……」


あたしは唖然としながらもスマホを音のした方へとかざしていた。


エレベーターの上るボタンがオレンジ色に点灯している。


薄暗い廊下ではその色がハッキリと浮かび上がってみえていた。


外は雷など鳴っていない。


これは間違いなく、ボタンの光だった。