幼い頃交通事故で片足を失ったけれど、あたしは健常者たちと変わらない日常を歩んでいた。


障害者専用の学校に通い、人並みに勉強もできていた。


「いけない。教科書を忘れて来ちゃった……」


校舎を出たところで不意に忘れ物に気がつき、あたしは校舎を振り返った。


あたしが使っている教室は3階にある。


ここから戻って教科書を取って来るには、少しめんどくさいと思える距離だった。


けれどこの学校にはエレベーターが設置されているし、今日出された宿題で必要な教科書だから、どうしても取りに戻らないといけなかった。


仕方なく、一緒にいた友人に声をかけて、あたしは1人で教室へ戻ることになったのだ。


「咲子ちゃん」


校舎へ入る寸前で声をかけられ、あたしはそちらへ振り向いた。


立っていのは前原君だ。


前原君は同じクラスの男子生徒で、大人しくてあまり会話をしたことがない。


「なに?」


首を傾げてそう聞くと、前原君はおずおずと近づいてきた。


太陽の光で前原君の義手が光っている。