エレベーター

車のクラクションが聞こえて来たかと思うと、乗用車が急接近していた。


あ、このまま死ぬんだ。


そう考えるあたしはやけに冷静だった。


棒立ちになったまま動けないのに、迫って来る車のナンバーも読み取れるくらいだった。


もしかしてエレベーターの中だけじゃないのかも。


咲子さんはシビレを切らして、あたしを襲いに来たのかもしれない。


そんな考えが一瞬にして過ぎて行き……次の瞬間、ブレーキ音とゴムの焼ける匂いが周囲に立ち込めていた。


体に衝撃はないが、あまりの騒音にギュッと目を閉じた。


そして……「なにしてんだ!」


そんな怒号が聞こえてきてあたしはようやく目を開けた。


見ると、乗用車の窓から男性が顔を出してこちらを睨み付けている。


それを見て、あたしはようやく呪縛から解放された。


慌てて一穂のいる歩道へ戻り、その場にしゃがみ込む。


「美知佳大丈夫!?」