それでもあたしの足はその場から動かなかった。


まるで、なにものかに捕まれてすごい力で下へと引っ張られているような感覚。


あたしは浅い呼吸を繰り返しながら視線だけど壁へと向けた。


薄汚れた壁の一部がへこみ、そこだけツルリとした質感に変化している。


中央には縦に伸びる筋が入り、それは左右に開く扉になっていた。


もう何年も前に使われなくなったエレベーターがそこにあるのだ。


窓の外が激しく光り、暗い廊下を照らし出した。


グィーン……。


微かに聞こえて来るその音は、紛れもなくエレベーターから発せられているものだった。


あたしはグッと目を見開いてそれを見つめた。


使われていないはずのエレベーターが今唸り声を上げている。


雨音の合間を縫ってカチッと小さな音が聞こえて来たかと思うと、エレベーターの隣にある登りの記号ボタンがオレンジ色に点滅した。


それを見た瞬間、あたしは悲鳴をあげてその場から駆け出していたのだった。