「柊ー」
食堂前の自販機に着くと、また名前を呼ばれた。呼び逃げなんてふざけんなって思っていたけれど、それは志乃だった。
「私にも飲み物買ってよ」
今日の志乃は長い髪の毛を高い位置で結んでいる。
朝から倉木を含む男子が「ポニーテールは正義!」なんて騒いでいたけれど、俺はいまいち良さがわからない。
「自分で買え」
そう言い返して、スポーツ飲料水のボタンを押した。
「いいじゃん。ケチ」
「俺は金を人に貸さない主義なんだよ」
「私はいつも柊にお金を貸してますよ?」
「小銭がない時だろ。しかもちゃんと返してるし」
「利子がついてないけどね」
「調子のんな」
俺と志乃がこういう言い合いをしていると、よく周りから痴話喧嘩がはじまった、なんて言われる。
痴話喧嘩は本来、付き合ってるやつらに対して使う言葉。何度も言うが、俺と志乃はそういう関係じゃない。
「あ、仁菜子ちゃん」
隣にいた倉木の視線が俺の後方へと向く。
「くらくん、こんにちは」
体育終わりであろう仁菜はジャージ姿だった。その横には友達もいて、どうやら俺たちと同じように飲み物を買いにきたようだった。
倉木はこうして仁菜のことを見つけるたびに声をかけているので、倉木の要望どおり『くらくん』なんて呼ばれている。
べつに仁菜が倉木のことをどう呼ぼうと勝手だけど、なんとなくそれも気に食わなかった。



