それから数日が過ぎて、学校の廊下を歩いていると、どこからか名前を呼ばれた。
「柊せんぱーい!」
すぐに振り向いたけれど、物陰に隠れるようにして女子生徒はバタバタと逃げていく。
「流行ってるらしいよ」
「なにが?」
「お前のこと呼び逃げするの」
教えてくれた倉木は羨ましそうな顔をしていた。
俺のことを呼んでなにがそんなに面白いのか。
振り向くのも、反応するのも、それなりに労力がいるから、マジでやめてほしい。
「俺もさ、一度でいいから女子にモテてみたいよ」
俺から見た倉木はモテないというほどカッコ悪くはない。でも人当たりがいいせいで〝いい人〟と思われることも多くて、お目当ての子とはいつも友達止まりだ。
「なんかいたじゃん。一年に狙ってる子」
「ああ、あゆみちゃん?いや、なんつーか彼氏がいたっぽい。この前、普通に『これがうちの彼氏なんですよー』って写メ見せられた」
「へえ」
「まだ告白もしてないのに振られるってどういうことだよ。ってか、最初は向こうから俺に話しかけてきたんだよ?んで、三年生の先輩って大人に見えますとか言って、ボディタッチしてきたりしてさ!普通に勘違いするじゃん!彼氏いないと思うじゃん!」
相当な鬱憤が溜まっていたんだろう。倉木の口がペラペラと動き続ける。
「女子ってマジでそういうところがあるよな!気がないのなら触るなよって。まあ、全然触ってもらえないのも凹むけどさー」
「どっちだよ」
倉木のこの手の話は今にはじまったことじゃない。失恋も多いけれど、そのぶん新たに好きな人を作るのも早い。



