「でも、お兄ちゃんが嫌でも私はお兄ちゃんがお兄ちゃんでよかったって思ってるよ」
仁菜がうっすらと微笑む。
ほら、またそうやって大人びた表情をする。
ずっと傍で成長を見てきたはずなのに、追いつけない。
「……ふ、はは」
リビングに響く笑い声。笑っているのは俺だった。
「ちょっと、私はけっこう真面目に言ってるんだから!」
「はは、ごめん。だって、だってさ……」
お兄ちゃんがお兄ちゃんでよかった、なんて言われたら、なんにもできない。
これ以上の呪いの言葉はないと思う。
「なんでもない。俺、勉強するから部屋に行くわ」
「うん。わかった」
仁菜を置いてリビングのドアを閉めると、身体の力がふっと抜けた。
仁菜と、どうこうできるなんて思ってない。
こんな気持ちなんて、ひそかにはじまって、ひそかに終わっていけばいい。
『……お兄ちゃんは、妹なんていらなかった?』
いらねーよ。
妹としての、仁菜なんていらない。
俺は妹として出逢いたくなかった。



