「姫莉ちゃん」


子供の減った校庭で2つしかないブランコの片方を占拠する姫莉ちゃん。
向こうも俺の存在に気付いて、気付いたのに気付いてないふりをして下を向いた。


俺はブランコの方に歩みを進める。


「姫莉ちゃん」
「…どうしてここに?」


割り切られたあの日から、ずっとあの優しい笑み。
やたら、よそよそしく見えてしまう。
前に戻っただけなのにね。


「甥っ子のお迎えに来たんだよ」
「そうなんだ」
「兄妹、だよね?」
「うん、可愛いでしょ。
透李(とうり)の方は引っ込み思案だけど、茉莉はよく澄珈くんと遊んでるんだよね」


ボソボソとそういう姫莉ちゃん。
俺はもう片方のブランコを占拠して、じっと姫莉ちゃんの横顔を見つめる。


「ねーえ、姫莉ちゃん」
「なに?」
「大事にするよ?」
「今まで、何人にそーゆーこと言って来たのかな?」


初めてだよ、本当に。
ちゃんと落ちたのが、初めてなんだって。


落とそうと思って関わったのに姫莉ちゃんはもうそういう時期終わってて、なのに俺は今更姫莉ちゃんに落ちちゃってさ。
ずーっとテンポずれてるよね。