「姫莉ちゃんが付き合ってくれるって、言うなら」
「えっ…」
「バレたら大変だよね、お金稼げなくなっちゃう。
特待枠、取られちゃうかもしれないしね?」


悪魔、だと思う。
自分でも思うんだから、姫莉ちゃんは絶対それ以上のことを思ってると思うよ。


だって、ほら。この複雑そうな、歪んだ顔。
……そーゆー顔、俺は好きじゃないけどね。


「どーする?俺と付き合っとく?
まぁ、姫莉ちゃんにはそれくらいしか選択肢なさそうだけどね?」
「…そーゆーの、ズルくない?」
「まぁ、それくらいしてでも姫莉ちゃんがいいってことだね?」
「どーせすぐ、捨てるくせに」


むすっと、拗ねた顔。可愛い。


「どーする?」


姫莉ちゃんの手をぎゅっと握って顔を近づける。
唇が触れるまで、3センチ。


「……」


姫莉ちゃんは視線を落とした後、ゆっくり目を閉じた。
諦めて、くれたらしい。


チュッと触れるだけのキス。
久々の感覚。


「ありがとね、姫莉ちゃん」
「……嫌い」


むうっと口を膨らませて、控え室を出て行った。
シフト、いっつも入れ替わりだったんだ。
そーゆーことだ。
だから今まで気づかなかったんだね。
8月に入ったら、多分、もっと被るんだろうな〜って。


「ラッキー」


夏休み、楽しくなりそう。