猫娘とおソバ屋さんで働いています

「ところで」
 浅間ハイツが妖怪アパートだと判明したことによる動揺を残しつつも気持ちを切り替える意味も含めて私は話題を変えた。
「どうして大家さんとみさきくんが同じ部屋から出てきたんですか」
 この質問に大家さんとみさきくんが顔を見合わせる。
 対して深い理由など求めていなかったのだが二人がしばし答えずにいたので思わずおかしな想像が私の頭の中で展開し始めた。
 二人のイケメンのいけない関係。
 腐女子の自覚はないが何事もその場の流れというか連想というものがある。それで生み出されたのが二人のBLであるが、決してこれは私の趣味ではない。
 たぶん広告会社にいたときの同僚の影響だ。
 間違いない。
「あおいさん」
 みさきくんの声にはっとする。
 もやもやとした頭の画面で繰り広げられていた絡み合う二人の姿が一瞬のうちに霧散する。
 ああ、もうちょっと見たかった……じゃない。
 私は新たな動揺を胸に平静さを装うとした。
「ち、違うの! これはその……そう、単なる女の子にはつきものの妄想というか……」
 無理でした。
 思いっきり動揺しました。
 両腕をばたばたさせて私は危ない空想をかき消して証拠隠滅をはかる。そんなものは二人にわかりようもないのだが何となくそうしたかったのだ。
「京極さんが俺の部屋に来てたのは姉のことで話しがあったからですよ」
 私の妄想なんて意に介さないといったふうにみさきくんが答えた。
「姉のこと?」
 そういえば前にお姉さんがいるって聞いたことがある。
 確か三年前に結婚しているんだよね。
 そして、みさきくんはお姉さんの話をするときものすごくいい顔をする。
 年上女性に憧れる男の子の顔だ。
「お姉さんのことでどうして大家さんが?」
「ああ、うん」
 大家さんがぽりぽりと頬をかいた。
「実は彩さんのところに青山さんを紹介したことで一つ問題が起きてね」
「問題、ですか?」
「俺の隣の部屋の住人が大沢の五男坊の店で働くってうちの情報網に引っかかったらしくて」
 みさきくんが申し訳なさそうに。
「それであおいさんが人間だってばれちゃいまして……ここって妖怪しかいないってことになってたから『どういうこと?』てちょっとした騒ぎになっているそうなんですよ」