猫娘とおソバ屋さんで働いています

「あの、大家さん」
「うん、何?」
「いえ、今何て……」
「ああ、要するに紹介した責任はとるってこと」
「……」
 これはありがたいことなの?
 返答に困っているとみさきくんが口を開いた。
「おかしな客に絡まれたら遠慮なく俺に言ってください。ギタンギタンにしてやりますから」
 こちらも物騒だった。
 にしても「ギタンギタン」て……。
 どうなのその言い回し。
 それにやっぱり見た目からは想像できない不穏な言葉に私はこれまたどう応じたものかと困惑した。
 みさきくんが続ける。
「あおいさんには京極と宮部の家がついてますから、大抵の連中は手出しできないんですけどね」
「それに彩さんや五郎くんもいるから大沢の家も勘定に入れていいよ。つまり『大極宮(たいきょくぐう)』が揃って後ろについているってこと」
「大極宮?」
 どこかで聞いた憶えのある単語に私はそれがどこであったかを思い出そうと頭を巡らせる。
 気絶から目を覚ましたときだと思い至ったときみさきくんが教えてくれた。
「妖怪の中でも特に力のある三大名家のことですよ。天狗の大沢、竜の京極、九尾の宮部、それぞれの家の名字から一文字ずつとって『大極宮』です」
「あ、そうなんだ……ん?」
 あれ?
 何だか聞き捨てならないことを耳にしたような。
「……」
「「ん?」」
 大家さんとみさきくんの疑問符が重なる。
「あ、その、えーと」
 自然と背中に嫌な汗が浮かんでくる。
 くらくらとめまいを覚えた。
 妖怪。って言ったよね、確か。
 つまり、それって……。
「あの大家さんとみさきくんって」
「「うん?」」
 またも重なる二人の疑問符。
 私は躊躇しつつも聞かずにいられなかった。
「もしかして妖怪。なんですか」
「「うん」」
 疑問符は取れたけどまたまた二人の声が重なった。
「あれ? あおいさん言ってませんでしたっけ?」
「聞いてない、聞いてないよ!」
「そうだね、僕も言った憶えないし」
 やや驚いた様子のみさきくんに対して大家さんは余裕たっぷりだ。
 というか確信犯?
 いやいやいやいや。
 私はドキドキする胸の鼓動を意識しながら半歩後ずさる。
「よよよ妖怪なんですか」
「あーそうですよね」
 とみさきくん。
「びっくりですよね、俺も自分にびっくりです。すっかり顔馴染みだってのに大切なことを伝えてなかっただなんて」
「ふふっ、驚いてる驚いてる」
 みさきくんは申し訳なさそうだけど大家さんは……楽しんでる?
 え?
 タチ悪い?