猫娘とおソバ屋さんで働いています

「ん? どうしたの?」
 じいっと見つめてしまったようで、ゆきさんがきょとんとした。
 私は慌てて首を振る。
「あ、すみません。何でもないです」
「そう? 私の顔に何かついてるとかじゃない?」
「ついてないですよ。本当に何でもないです」
「ならいいけど……夏彦(なつひこ・大家さんのこと)さんの知り合いのお店で気絶した以外にもやらかしちゃったとかそういうのがあるんじゃないの?」
「やだなあ、そこまで抜けてませんよ」
 まあ、お昼の営業中ずっと寝ていただけでも十分に抜けているのかもしれないけど。
 明日からは気をつけないと。
「……ねぇ、あおいさん」
「何ですか」
「やっぱりまだあるわよね、私に話してないこと」
 ゆきさんが真面目な顔で聞いてきた。
「もし隠しているなら、私、悲しいわ」
「あ、いや、えーと」
 うろたえてしまった。
 それに何だかゆきさんから冷気のようなものが発せられているような……。
 いやいやいやいや。
 そんなことないよね。
 私は心の中で自嘲した。
 いくらパート先が妖怪だらけだからって、自分の飲み友だちまで人外に見えてどうするのよ。
 落ち着け私。
 ゆきさんは人間よ
 などと自分に言いきかせていると、ゆきさんのすぐ後ろの席にいる茶髪をカールさせた女性客が派手にくしゃみをした。
 連れの男性が半笑いで話すのが聞こえる。
「すげーくしゃみだな」
「うっさいわね。てか、ちょっと寒くない?」
「そういやそうだな。まあ、暖房が効いていないんだろ」
「さっきまでは何ともなかったのよ」
「……それ、風邪でもひきかけているんじゃね?」
「やだ、どこかで感染(うつ)ったのかな」
 ……そういえば寒気がする。
 私も風邪?
 まさか、ね。
 私が黙っているとゆきさんが声をかけてきた。
「あおいさん?」
「あっ、はい」
「本当に大丈夫? 一人で抱え込まずに遠慮なく私を頼ってくれていいのよ」
「ありがとうございます。けど、本当に大丈夫ですから」
 ふう、とゆきさんがため息をついた。
「うーん、私には何かあるってビンビン伝わってくるんだけどなぁ」
「……」
 そ、そんなに私って悩んでいるように見えるのかな?
 でもでも綾さんたちの正体を明かすわけにもいかないし……。
 秘密にしないといけないよね。
 ゆきさん、ごめんなさい。