猫娘とおソバ屋さんで働いています

 さっきまでの緊張感を完全無視して直子さんが話し始めた。
「あおいちゃんは狼男って知ってる?」
「あ、え、はい。知ってます」
 不意の質問にちょっと驚いてしまう。
「月を見ると人の姿から狼に変わってしまうあれですよね」
「うん。やっぱりそういう認識だよね」
「はい?」
 どこか間違ってたかな?
 直子さんがさらにたずねる。
「じゃあさ、人狼ってどんなだと思う?」
「え? 人狼ですか?」
 五郎さんのお母さんと妹さんたちも人狼だよね。
 けど、狼男と人狼の違いって……。
 あれ?
 どっちも一緒?
 まあ、狼男は男の人だよね。
 だとするなら、女の人は狼女?
 人狼の場合は……。
 えーと。
 ……呼び方ってわけじゃないよね。
「どっちも月を見ると変身しますよね?」
 直子さんがゆっくりと首を振った。
「あのね、人狼は月に関係なく自由に人から狼、狼から人になることができるんだよ。一方、狼男はそういう自在性はない。そのメカニズムをちゃんと説明すると長くなるから省くけど、とにかく人狼に比べてとっても不便で決定的な違いといってもいい。ただその分、潜在的な体力とか成長の早さは狼男のほうがすごいんだ」
「そ、そうなんですか」
 私が相槌を打つと直子さんは銀縁眼鏡のブリッジを押し上げた。
 柔和な顔で。
「ここで問題。さて、僕は人狼と狼男のどっち?」
 え?
 私は耳を疑った。
 これ、正解が狼男だったら直子さんは……つまり……。
 つい、目がその豊かな双丘にいってしまう。
 だとしたら、これは?
 あれ?
 シリコンか何か?
 でもでもでもでも。
 そんな訳ないよね。
 そりゃ、確かに「僕」とか言ってるけど、そんなことないよね?
 私が考えている間に「チッ、チッ、チッ、チッ……」と直子さんが秒針の音を口真似する。
 直子さんに影響されたのか彩さんがどこかで聞いたようなBGMを口ずさみだした。これ、ゴールデンタイムで昔やってたクイズ番組のやつだ。正解数が少ないと遊園地のアトラクションみたいに解答席がぐるぐる回転するあれ……。
 こ、この場所回らないよね?
 けど、彩さんなら何かの力でやりかねないかも。
 あおいくん、のんびりしてると持ち時間を失うよ。
 五郎さんの「声」に私はぎょっとした。
 え?
 制限時間つき?
 どうしよう。
 でででででも、直子さんって女性のはずだし。
 ちらとタマちゃんを見る。
 に、にやにやしてる!
 絶対、この状況を楽しんでるよね。
 さあさあ、答えをどうぞ。
 ……五郎さん、ノリノリですか。
「あおいちゃん」
 彩さんが追いこんできた。
「あと五秒以内に答えないと不正解ってことになるから」
 ええーっ!
 もはや迷ってる場合ではない。
 私は決めた。
「お、狼男!」
 さて、正解は?