猫娘とおソバ屋さんで働いています

「あの……」
 和室に直子さんが戻ってきたところで私は質問した。
「五郎さん……じゃなくて大将が天狗ってことは、彩さんも天狗ですか?」
「あらやだ、私が天狗?」
 彩さんが面白そうに笑う。
「そんなわけないじゃない。天狗だなんて」
 あれ?
 私、おかしなこと言った?
 タマちゃんが意地悪そうに口許を歪めた。
 直子さんも苦笑している。
 ま、普通は知らないよね。
 五郎さんの「声」が説明してくれる。
 天狗は男しか生まれないんだ。
「はい?」
 だから、天狗は他の種族の女性を娶って子供を作るんだ。
 え?
 え?
 え?
 あまりのことに私の頭の中が疑問符だらけになる。
「どどど、どういうことですか?」
「やっぱりこいつ頭悪いにゃ」
 タマちゃんの悪口はこの際スルーする。
 それよりもこっちのほうが大事だ。
「五郎さんのお母さんも天狗じゃないってことですよね」
 うん。
「天狗とそれ以外の人が子供を作って、男の子なら天狗……なら、女の子は?」
「母親と同じ種族になるわね」
 と、彩さん。
「例えばこの人の場合、母親は人狼(じんろう)で、妹さんたちも人狼よ」
 うん、三人とも人狼。
「どうしてそうなるかを聞かれても困るけど、天狗ってそんな人たちなのよね」
「えっと、じゃあ彩さんは?」
「あ、私は天女(てんにょ)」
「はい?」
 予想の斜め上だった。
 というか天女って妖怪?
 幽霊、とかじゃないよね。
 神様?
 それも何か違う気がする。
 こんなことならその手のアニメを見るとかコミックスを読むとかしておけばよかった。
 あとラノベとか。
「天女って妖怪ですか」
「正確には違うけど、まあ人外って意味なら一緒よね」
「彩さんそれざっくりしすぎ」
 直子さんがつっこんだ。
「天女は天上界に住んでいる女性のことだよ。たまに下界に降りてくるけど、普段は天上界に暮らしているんだ」
「私はたまたま下界に来たときにこの人と出会っちゃったのよ」
 うん。
 と五郎さん。
 あのときの彩は本当に綺麗だった。
 しみじみと、そしてなぜか残念そうに遠い目をする。そんな五郎さんに彩さんがゆっくりと向き直った。
「あら、『綺麗だった。』って何? どうして過去形なのかしら?」
 うわぁ。
 彩さんからとてつもなく黒いオーラが発してきてる……。
 顔はとてもにこやかなのに全然笑ってる気がしないよぅ。
 彩さん……怖すぎる。
「ねぇ、あおいちゃん」
 ギギギ、と擬音が聞こえそうな動きで彩さんが首だけこちらに向ける。
「あおいちゃんも女だから私の気持ちわかるわよね? ね?」
「あ、はい」
 うなずくしかなかった。
 というか、天女って怖い。
「お前誤解するにゃよ」
 小さな声でタマちゃんが言った。
「彩さんが怖いのは彩さんだからであって、天女は関係にゃいからにゃ」
「ターマーちゃーん」
 彩さんの黒いオーラがさらに黒くなる。
「お口チャックできないのかなぁ?」
 即座にタマちゃんが両手で口を塞ぐ。
 だらーっと汗を流した。
 あ、これはやばい汗だ。
「ええっと、彩さん」
 なぜかのほほんとした口調で直子さんが割り込む。
「せっかくだから僕のことも教えてもいいかな?」