「う————か————!!」
「本名叫ぶなバカ!」
あ、つい。
「本人に聞かれたら大迷惑だよ‥‥」
呆れている澤原。
その表情は、どことなく明るい。
「よかった」
「ん、なんか言った?」
「いや、何でもない」
澤原が、元気になってよかった。
すんなりそう思った自分に少し驚きながら、笑った。
俺は澤原に背を向けて家に向かって歩き出した。
今度は澤原は、追いかけてこなかった。
「諦めきれない。だけど、諦めてやるよ」
雨之瀬、と呟く。でも、
「好きでいるだけなら、構わないだろ‥‥‥」
泣き言が漏れそうになる。
「あーあ、なにげ、初恋だったのに」
そう言い残して、その場を去った。


