「次は、何を楽しもうかしら?」

 相も変わらず湿気臭く薄暗い部屋の中、真昼だというのにランプの灯りをたよりに、アンジェリ―ナは例のリストを眺めていた。

(なるべく、この部屋にこもってできるものがいいわ。塔の中や庭をうろついていたら、いつどこでビクター様にお会いするかわからないもの)

 厄介なことになってしまったとため息を吐きつつ、リストを指で辿る。

 そして、とある一項目で指を止めた。

「フルーツカービング……」

 アンジェリ―ナが前世を生きていた頃のことだった。

 終電で仕事から帰った夜更け。見るつもりはなく、孤独を埋めるように点けていたテレビに、彼女の目が釘付けになった。

 画面では、大きく実ったスイカに、流れるかのごとくナイフで薔薇模様が刻まれる様子が映し出されていた。

 緑の厚い皮に、花びらのひとつひとつが、精緻に彫り込まれていく。スイカの中身が見えるまで掘られた箇所は、まるで本物の薔薇が咲いていたかのように赤々と輝いていた。

 それは、『フルーツカービング』と呼ばれる技法をレクチャーする番組だった。

 見たこともない芸術的な美しさに、前世のアンジェリ―ナはすぐに魅せられた。だから、即刻動画を見て、フルーツカービングのやり方を頭に叩き込んだのだ。