(ビクター様の、妻に……)

 王子となった彼の妻になるということは、王宮に住まうということだ。それはつまり、アンジェリーナが前世から望んでいたネクラ趣味生活とは、決別するということだ。

(それはイヤ)

 そうは思うものの、アンジェリーナは目の前で自分をひたむきに見つめる視線から、目が離せなかった。

(ツンデレキャラのくせに……)

 愛してるだの、妻になってくれだの、情熱的な言葉が過ぎる。

 だが、悪くないと思っている自分が、アンジェリーナの心の中には確実にいた。

 ゲームの中の、ツンデレ仕様の後付けキャラもスチュアートよりは気に入っていたが――デレが過ぎる彼の方が、強引すぎるほど強引にアンジェリーナの心を乱す。

(私は、今のビクター様のことが好きなのだわ)

 ゲームの中のビクターと今ここにいる彼が違うように、前世のアンジェリーナと今の彼女も同じではない。

 だから、ネクラ趣味にこだわって生き続けなければならない必要はないのだ。恋にうかれ、ウエディングドレスに身を包む、新たな選択肢もたしかに存在するはず――。

 アンジェリーナは気持ちを固めると、大きく息を吸い込んだ。

 そして、不安と期待半分半分といった面持ちでアンジェリーナを見つめているビクターに、柔らかく微笑みかける。

「はい」

 恥じらいながら、アンジェリーナは答えた。

「私を――あなたの妻にしてください」