アイリスが何に怯えているのか分からなかったが、時間のためラルに目で合図すると大広間の扉が開いた。

扉の向かうは明るく、シャンデリアがキラキラと光を放っている。

アランにエスコートされ席まで行くと、トロイアの王と王妃が待っていた。

王妃はちらりとアイリスを見ると「あら、あなたまだ生きてたの?」とさらりと冷たい言葉を吐き捨てる。

大広間にいた全員がぎょっとし、凍りついた。

アイリスは更に青ざめ、ガタガタと震えだす。

そんな様子の娘を見ても、トロイアの王は何も言わずアイリスを無視し続けている。

「なっ……」

そんな三人の様子にアランは言葉を失ってしまう。

久しぶりの再会……嬉しくないのか?

アランは震えるアイリスを横から支えるように抱きしめていると、それを見ていた王妃がくすりと笑う。

「さすが側室の子ね。もう陛下をたらし込んだの?」

その王妃の言葉にラルが怒りを抑えられず、睨みつけた。

「陛下を愚弄するきですか!?」

「ふふふ……怖いわね」

怖がっている様子はなく、嘲笑する王妃。

「その子は悪魔の子、お気を付けなさい。命をとられるわよ」

そう言うとガタンと椅子から立ち上がった。

「今日は疲れたので部屋で食事を摂ります。あなた、行きましょう」

王は何も言わず王妃とともに広間から出て行き、その後をいそいそとトロイアの侍女がついて行く。


アイリスの耳には


ドクン…


ドクン…


ドクン…


と自分の心臓音しか聞こえない。

心配そうに自分を覗き込むアランの顔……。

誰かが近づいてくる。

エイミーだ。

「アイリス様……」

かわいいアーモンド形の瞳に涙をいっぱいに溜めていた。

アランとエイミーの顔を確認し、気が抜けたのか膝から力が抜けてしまう。

がくんっと膝がおれ床に座り込む前に、腰に回していたアランの手に助けられる。

「エイミー!!アイリスを部屋へ連れて行く!!」

「はい!!陛下」

アランは足に力の入らないアイリスの膝の下に腕を入れると、軽々抱き上げ部屋へと向かった。