医院長室へ入ると
50歳そこそこであろうとても素敵な紳士が
フカフカの高級椅子に座っていた。


「親父を救ってくれてありがとう」


「あ・・・いえ
たまたま通りかかったもので」


前医院長は持病があり
何故倒れたのかは検査中とのこと。


「君の名前は」


「山川と申します」


「山川?うん?」医院長は首を傾げながら
「知り合いに山川って言うのがいるんだけど」
と言う。


いえいえ そんな医院長さんとか
知り合いじゃないですから。。。


「きっと山川違いですね」


「まぁ山川って名前は
この世の中たくさんいるからな
で?下の名前は?」


「愛華です」


「愛華?どんな字を書くのかい?」


「華があり誰にも愛されるようにと
愛に華です」


「・・・・・そう」


急に口数が少なくなった医院長。


「それでは失礼いたします」


「待ちなさい
何か困ってることあるかね?」


「え?」と振り返った。


親の命の恩人だから
何かお礼をさせて欲しいという。


「命の恩人とか。。。
大袈裟ですよ
気持ちだけで十分です」


「そんなこと言わずに
あっ!大学!
大学で困ってることないかね?」


「すみません
大学生じゃないので
高卒でアルバイトしてる状態です」


「高卒?アルバイト?」


まぁお医者様のご家庭には
高卒とか考えられないでしょうね
医科大学に大学院に進むのでしょうから。


「ちなみにご両親は?」


1番聞かれたくない話題。


「あの・・・本当の親は
母親しかいないので」
そういうと質問が続く。


私の両親は親の反対にあい
入籍をすることもなく私が産まれる前に
破局を迎えた。


それからは母が一生懸命
女で一つ私を育ててくれた
その頃の母はとても大好きな母だった。


お金がなくても父がいなくても
毎日笑いのある楽しい生活だった。


でも私が小学へ上がる前
母は結婚した。


突然できた父
すぐに産まれた私の弟
実子でない私に陰に隠れて辛く当たる父
母に言おうと思っても
「ねぇ!母さん」と言えば「後にして」
話さえ聞いてもらえる環境でなかった。


それどころか就職が決まらない私に
愛想を尽かしたのか
『あんな子産まなきゃよかった』と
父に後悔の言葉を言ったと言う
それは母には確認していない
本当に言ってたならかなりのショックだから。