「ただいま」

玄関に入ると必ず口にする言葉は、もうここに彼と住みはじめてからずっと私が言い続けていること。

夜勤明けの陽の高い帰宅に、誰も家にいるはずもなく、私の言葉に返事などもちろん聞こえない。

寝室の扉を開けると、私が綺麗に整えたままのベットが視界に入り軽いため息をつく。

いつからだろう…。

夜勤で留守の日には(しゅう)は外泊するようになった。

以前はどんなことがあろうと、何時になろうと家に帰ってきていたのに、今はそのまま仕事に向かっている。

柊が私以外の女の子と遊んでいるのはわかっている。

それでも泣いたり怒ったり彼に対してできない私は小心者でズルい女だ。

私が日勤や休みの時は、きちんと帰宅して私に笑顔を向けて優しくしてくれるから、私は柊を失いたくなくてなにも言うことができないでいる。

二十歳から同棲しはじめて私も柊も二十八になった。

私が彼の浮気に対して強く言えないのには理由があるのだ。

だって…

私たちはいまだに体の関係がないのだから…。